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無事に返してほしければ 第十四回

by 小説丸

死んだはずの息子が誘拐された。それは一家崩壊の序章に過ぎなかった。

先読み書店員の98%が呆然・驚愕した誘拐ミステリーを、先行公開。 

あなたもきっと、騙される!

著 白河三兎

 令子が電話を切る音を最後の最後まで聞いてから、「本当に犯人はうちを見張っているのでしょうか?」とクマさんに質問した。

「ハッタリの可能性もありますが、言う通りにするしかないでしょう」

 刑事たちは素直に犯人の指示に従う。ただし、ノートパソコンや無線機やスマホを持ってバルコニーへ出た。私は窓の鍵とカーテンを閉める。時刻は十七時を回っているので、外はもう暗い。それに加え、雨が降っている。犯人は暗視スコープでも使ってクマさんたちの姿や施錠を確認するのだろうか?

 大体、刑事たちを締め出すことにどんなメリットがあるんだ? 無線機やスマホを取り上げなくては、さほど捜査の妨害にならない。クマさんと私はアドレスを交換したから、電話やメールで情報を伝えられる。また、警察はうちの固定電話の通話を傍受している。

 犯人の狙いがさっぱりわからないが、警察を引っ掻き回すための布石であることは間違いない。クマさんやヒナの注意を逸らし、その隙に身代金を奪うつもりか。今頃そっと乗り込んだミニクーパーの中で発信器を探しているのかもしれない。

 そのことをクマさんにメールすると、〈ラブホテルの駐車場に潜入させた捜査員が見張っています。今のところ、奥さんの車に異常はありません。〉と返ってきた。

 だが、安心はできない。潜入させたのは、妻の車がラブホテルに入ってから数分後。空白の時間が存在する。その間に、犯人は駐車している別の車に身代金を載せ換えたのでは? 数メートルの移動では地図上のピンは動かない。

 悪い想像ばかりする私をクマさんが〈たとえ犯人が別の車の中でせっせと発信器を外していたとしても、あのホテルから出る人間は全て身元を洗います。何重にも張り巡らされた包囲網が突破されることは決してあり得ません。〉と励ました。でも不安が消えることはなかった。

 およそ一時間半後、令子から連絡が来た。

「さっきとは別の声の男から電話があって、犯人が『日野拓真は娘とデートするのに相応しい格好をしろ』って」

「えっ? どういうことだ?」

「私に訊かないでよ。他には『啓太くんお気に入りのタオルケット、サッカーボール、亜乃ちゃんお気に入りの熊のぬいぐるみ、買ったばかりのワンピース、それらを日野拓真は愛車のランドクルーザーに載せて日野令子がいるラブホテルへ行け。それから半ドアにしたまま二〇二号室で夫婦一緒に待機しろ。電話後、五分以内に家を出ないと、一人殺す』って」

「わかった」と言いながら私は時間を確認した。「あとは?」

「何も」

「じゃ、すぐに準備するから切るよ」

「うん」

 私は受話器を置くと、急いで着替えた。亜乃がコーディネートした通りにジーンズと山シャツを避け、カナダグースのダウンジャケットを羽織った。それから指定されたものを掻き集める。

 娘の部屋に紙袋に入ったままのワンピースを、啓太の部屋にタオルケットとサッカーボールを、玄関に編み上げのブーツを取りに行き、後部座席に放り込んだ。熊のぬいぐるみは昨日亜乃と二人で出かけた時から載せっぱなしだった。

 靴下のまま運転席に乗り込んだ時には、タイムアップ間近になっていた。私はシートベルトを後回しにし、ガレージのシャッターが上がりきらないうちに発車させた。車内に金属音が響き渡る。屋根を少し擦ってしまったが、制限時間オーバーにはならなかった。

 シートベルトを締め、令子のいるラブホテルへ車を走らせる。雨の中での運転でもあるから、細心の注意を払いつつクマさんにメールで指示を仰いだ。犯人はスマホの所持について触れなかったので、ポケットに入れてきた。

 すぐに返信が届く。

〈犯人が二〇二号室に固執したのは、その部屋に旦那さんと奥さんを入れたい理由があるのだと思われます。盗聴器や盗撮カメラがつけられている可能性があります。重要な会話は犯人に聞かれないよう小声や筆談などで工夫してください。〉

 二〇二号室の部屋中に盗撮カメラが設置されていたとしても、私や令子の言動を把握してなんになる? 多少は捜査方針に関する情報を得られるかもしれないが、微々たるものだ。

 本当に犯人の目的はお金なのか? 別の目論見があるように思える。車に載せたのはどれも亜乃と啓太を喜ばせるものだ。犯人は子供たちの敵じゃないのでは? 『娘とデートするのに相応しい格好をしろ』にも邪悪な印象を受けない。いったい何をさせたいんだ?

2018年10月22日より毎日更新

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2018年10月25日発売「無事に返してほしければ」著/ 白河三兎

運営: 小説丸 (小学館)

表紙イラスト:宮坂 猛

Photo: aicocco

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